ICBC|路上の署名集めが、世界最大級の大麻ビジネスカンファレンスの旗手に
2026.07.25
最高のアイデアはシャワー中に降ってくる。
2015年、サンフランシスコ。
シンクに収まらないガラスボング(水パイプ)を、彼は仕方なくシャワー室で洗っていました。
「分解できたら、どんなに楽だろう」
その場で描いた7枚のスケッチが、「ボングのLEGO」ことモジュール式ガラスボング『VITAE Glass(ヴィタイグラス)』の原型です。
<出典元>ボングとは、水を通して煙を冷やし、吸いやすくする筒状のガラス製喫煙具のこと。
海外の大麻カルチャーでは定番の道具で、大きいものは高さ40〜50cmにもなります。
ベース2つ×マウスピース2つで4通り、3つずつなら9通り。
パーツが増えるほど、組み合わせは掛け算で増殖します。
世界的な経済雑誌『Forbes(フォーブス)』も取り上げられ、またあるレビュアーはこう評しました。
「まるでガラスの靴を見つけたディズニープリンセス。10点満点で10点」
<出典元>創業者はGordon Loi(ゴードン・ロイ)。
マカオ生まれ、南アフリカ育ちの国際人です。
2019年4月20日(大麻の祝日「420」)のローンチと同年にフォーブス掲載。
華々しい船出のはずが、直後に彼を待っていたのはアメリカへの入国拒否でした。
売上の99%はアメリカなのに、自分はアメリカに入れない。
それから7年間、彼は香港から太平洋の向こうのブランドをほぼ一人で経営し続けます。
なぜそんなことができたのか?情熱と執念の物語を解き明かしました。

ゴードンの人生は、最初から国境をまたいでいます。
マカオに生まれ、1歳で家族とともに南アフリカへ。
ヨハネスブルグとケープタウンで各10年ずつを過ごしました。
1980年代に南アフリカへ渡った父は、中国からの輸入卸売業を営む起業家。
学校の休みは店の手伝いか、倉庫でのコンテナの荷降ろし。
時には住宅街の自宅ガレージに18輪トレーラーが乗りつけ、40フィートコンテナの中身を降ろしていく。
そんな環境で、彼は「輸入」と「商売」を肌で覚えて育ちます。
大麻との出会いは16歳。
「当時は若くて金もないから、道具は全部DIYでした。ペットボトルとペンかストローがあれば、ボングなんてすぐつくれる。まさか10年後、それが自分のビジネスになるとは思いませんでしたが」
当時は、裏庭で2株を育て、母親が水やりを手伝ってくれたと言いますから、日本人には信じ難い世界観です。
高校時代に『金持ち父さん貧乏父さん』を読み、「ラットレースからの脱出」を胸に刻んだ彼は、その後サンフランシスコへ。
経営学の学士号を取得し、そのまま12年間を過ごします。
本業は不動産開発。
アフィリエイトや不動産で試行錯誤を重ねますが、大きくは実りません。
ただ、この「失敗の連続」が、後に何度も彼を救う粘り強さを育てました。
「アジア系の家庭ですから、親には『医者か弁護士になれ』と言われ続けました。でも子どもって、言われれば言われるほどやりたくなくなるものでしょう(笑)」

2015年のシャワー室で生まれた7枚のスケッチ。
しかし、当時のカリフォルニアはまだ嗜好用大麻の合法化前。
将来が見通せず、図面は引き出しの中で2年間眠ることになります。
転機は2016年11月。
カリフォルニア州の嗜好用大麻合法化です。
「これは世界規模の変化が始まるサインだと感じました。ずっとこの業界で働くことを夢見ていましたが、どこから始めればいいか分からなかった。ついに、その時が来たんです」
そして2017年、市内の喫煙ラウンジ『Harvest(ハーベスト)』での一服中、決定的な瞬間が訪れます。
隣にいた喫煙仲間が、何気なくこうこぼしたのです。
「洗いやすくて、カスタマイズできるボングがあればいいのになあ」
頭の中で電球が灯りました。
あの図面だ。
「彼に叫びましたよ。明日また来い。見せたいものがあるって。これが、『ヴィタイグラス』の始まりです」
立ち上げを支えたもう一人の人物が、大学時代からの親友で共同創業者のマーティン。
ウォール街出身の金融マンで、本人は大麻を一切吸わないにもかかわらず、サンフランシスコ側の実務を一手に担いました(現在は別の道へ進んでいます)。

開発は、失敗の連続でした。
「最初は『石英(クォーツ)が最強だ』と聞いて、石英同士のネジ接続で試作しました。大失敗です。コストは2〜3倍、防水シールは効かない、欠けやすい。最初の試作品は底が開いていて水すら入らず、マウスピースは人間の唇には大きすぎた(笑)。今も使われないまま、記念に取ってあります」
3Dプリンターでガラス×プラスチック接続に切り替え、ようやく光が見えます。
しかし今度は、ガラス側とリング側のネジ山を一致させる戦いが待っていました。
ネジ山は金型ではなく手作業のプレス成形。
試作は4〜5世代におよび、検品合格率は当初70%程度だったといいます。
品質のブレイクスルーは、一人の巨匠との出会いでした。
米国の著名ガラスブランド『US TUBES』を手がける、バークレー在住・キャリア30〜40年のマスターガラスブロワー。
ゴードンは橋を渡って彼を訪ね、直談判します。
「彼の答えは『自分が全部作ったら価格が2倍、3倍になる。だが、俺が直接鍛えた工場がある。彼らと話せ』。以来ずっと、彼が育てた天津の工房と組んでいます。職人の平均キャリアは15年です」
「中国製ガラス」への先入観に、彼は明確に反論します。
「ガラスはクラフトマンシップの世界です。同じ職人がアメリカにいようがドイツにいようが中国にいようが、品質は変わらない。ガラスの質は、場所ではなく、アーティストの腕で決まるんです」
品質基準は妥協しません。
ガラスは厚く(側面5mm・ベース20mmのラボグレード・ボロシリケイト)。
そしてジョイントは透明に。
「ガラス製品を買うとき、継ぎ目に『線』が見えたらダメです。完璧に溶け込んでいなければならない。4分の1の価格で作れる工場はいくらでもありますが、品質は別物。それに大手工場と組めば、デザインを盗まれるリスクもついてくる」
ちなみに「特許」については、苦い経験があります。
「『特許出願中』として販売を始めましたが、取得には2〜3万ドルかかる。
当時のわれわれにその資金はなかった。
案の定コピーされて、今では類似ブランドがいくつもあります。
だから今、ツイスト式に代わる新しい着脱方式を開発しています。
今度こそ特許を取る。二度とコピーはさせません」

2018年8月、7人のチームがそろい、いよいよローンチへ。
その矢先、運命が反転します。
「工場視察からサンフランシスコに戻るフライトで、突然、入国を拒否されたんです。アパートに私物を取りに帰ることすらできませんでした。再入国まで少なくとも3〜5年。あの時、選択肢は2つでした。すべてを投げ出して別の何かを始めるか、米国に戻れないまま続けるか。言うまでもなく、私は後者を選びました」
7人のチームは離散し、残ったのはサンフランシスコのマーティンと、香港のゴードンの2人だけ。
資金調達も暗転します。
製品は米国法上「薬物器具」扱いのため、クラウドファンディングのプラットフォーム『Kickstarter(キックスターター)』も『Indiegogo(インディーゴーゴー)』も出品不可。
ベイエリアでの対面ピッチも、本人が入国できない以上は不可能。
結局、友人と家族から集めた3万ドルを元手に、ガラス200セットとパッケージ500箱での自己資金起業となりました。
2019年4月20日。
大麻カルチャー最大の祝日「420(フォートゥウェンティ)」に、サイトは静かにオープンします。

初日の売上は、1件。
「それでも最高の気分でした。自分たちがつくったものに、誰かがお金を払ってくれた。起業家として、これ以上の喜びはありません。……ただ、祝杯はすぐ終わりました。翌日から、売上ゼロの日が続いたんです」
2件目の注文が入ったのは、実に30日後。
UI改善と、300ドルで依頼したYouTubeインフルエンサーの動画が3,000ドルの売上を連れてきました。
しかし、この業界のマーケティングは制約だらけです。
『Google』『Facebook』『YouTube』『Amazon』での広告出稿はすべて禁止。
頼れるのはSEO、口コミ、メール、そして大麻業界に理解のある一部の媒体だけ。
税関にリスクがあるため輸送はすべて航空便で、コストは約60%増。
それでも、数字は着実に伸びていきます。
月商3,000ドルで始まった事業は、初年度に月1万ドル、2年で10倍へ。
月間サイト訪問者は7,000人から12,000人に成長しました。
その原動力を、彼は一言で言い切ります。
「忍耐です。売上と売上の間に1ヶ月空くようなスタートでしたが、続けてさえいれば、必ず良くなっていく」
そして、この7年には意外な「銀の裏地」もありました。
「製造も、パッケージも、すべてアジアでつくられます。香港にいたことで、工場との距離は圧倒的に近かった。製品の改良スピードは、米国にいたら2倍、3倍の時間がかかっていたはずです。どんなに酷い出来事にも、理由があるんですよ」
2025年、ついにグリーンカード(アメリカ永住権)を取得。
現在は、妻と3歳の息子が待つ香港と、ビジネスの現場である米国を3ヶ月ごとに行き来しながら、7年間封じられていた「現地での戦い」、卸売・流通拡大と現地チームの構築に本格着手しています。
「売上の99%はアメリカです。ターゲットも全員あちらにいる。現地に物理的な存在がないことは、ブランドにとって間違いなく足かせでした。やはり、ローンチした場所にいなければならないんです」

『ヴィタイグラス』の核心は、ネジ式(ツイスト・オン/オフ)のモジュール構造にあります。彼はこれを「ボングのLEGO」と呼びます。
「ベース(土台)が2つ、マウスピース(吸い口)が2つなら、組み合わせは4通り。3つずつなら9通り、4つずつなら16通り。パーコレーター(濾過パーツ)を足せば、そこからさらに倍々で増えていく。すべてが掛け算なんです。25通りのボングが欲しければ、25本買う必要はない。パーツを足せばいい」
各パーツは6〜8インチ程度と小ぶりで、専用の「クリーニングキャップ」で両端を密閉すれば、シェイク洗浄も一瞬。
シャワー室でボングを洗う日々は、もう過去のものです。
「肺活量も耐性も、人それぞれ違います。だから、煙の滑らかさも、フィルトレーションも、高さも、自分仕様に組み上げられるべきなんです。リングの色を自分の雰囲気に合わせて選び、愛着が湧いて自分のピースに名前をつける人までいます。自分で組んだ一台は、単なる道具を超えて、その人自身の反映になる」
嗜好用に特化する姿勢も明確です。
「医療用途なら、ピルやティンクチャー、エディブルのほうが摂取量を一定にできる。ガラスは純粋に『楽しむ』ための道具です」
もっとも、インタビューで日本の医療大麻事情が話題に上ると、彼はふとこう漏らしました。
「……医療の側面、考えさせられますね。将来のことは、わかりませんよ」
今後は新方式への移行とともに、ダブ用ライン(発売済み)、冷凍モジュール、バブラー、ハンドパイプ、Puffco互換アタッチメント、Empire Glassworksやローカルアーティストとのコラボ等、4〜6ヶ月ごとの新デザイン投入を計画しています。

社名の『VITAE(ヴィタイ)』は、ラテン語で「生命」。
「ボングを吸うたび、人生がより高い場所へ連れて行かれる感覚があります。だからこれは、使う人に生命を与え、環境には木という形で生命を還すボングなんです。決して死なず、時間とともに育ち続けるボング」
その言葉どおり、環境への取り組みは創業初日から一貫しています。
モジュール1個の販売につき、1本の植樹(One Tree Plantedと提携し、植樹は世界各国で実施)。
現在はさらに進化し、モジュール1個につき、海洋プラスチックボトル1本の回収も追加されました。
パッケージは100%リサイクル可能・プラスチックフリー。
コルクは再生コルク、リングとキャップには成長の速い竹素材。
配送はカーボンオフセットで100%カーボンニュートラル。
将来的には、製品からプラスチックを排除し、ヘンプ由来素材への移行を目指しているといいます。
「利益より社会的インパクトを優先する。それが創業初日からの信条です。エコ素材は高くつくし、価値観の合わない製造業者は選択肢から外さざるを得ない。難しい道ですが、正しい道です。大麻という植物自体がグリーンなのだから、この業界もグリーンであるべきでしょう」
彼のこの哲学を、最も端的に表すコピーがあります。
「われわれは木を吸うだけじゃない。木を植えるんです(We don’t just smoke trees, we plant them too)」

7年ぶりに戻った米国で、ゴードンが目にしたのは「激変した業界」でした。
「7年で、業界は激変していました。しかも、必ずしも良い方向にではありません。フラワーの価格は下がり続け、消費者には朗報でも、事業者にとってはマージンが薄く、税金が重い。プレイヤーが多すぎて、市場は完全に飽和しています」
彼の暮らしたカリフォルニアでは、インドア・アウトドアともに供給過多。
店頭にはTHC濃度19〜27%のフラワーが並びます。
消費トレンドについても、現場の肌感覚を語ってくれました。
「今もフラワーが65〜70%で主流ですが、コンセントレート(ダブ)が追い上げています。そしてフラワー製品の売上ナンバーワンは、圧倒的にプリロール。5本、10本のパック入りで、すぐ吸える。実は僕自身も、最近はもっぱらプリロールです(笑)。ただ、『儀式』として本当に味わいたいなら、やはりガラス。ボングか、ハンドパイプです」
戦線復帰への足取りも軽く、『Hall of Flowers』や『Champs』といった展示会への参加を再開。
次は世界最大級の大麻展示会『MJBizCon』での登壇も視野に入れています。
「ボングは一度買えば何年も使えます。それでも売れ続けているということは、世界のスモーカーは増え続けているということ。あとは、マーケティングが届くべき場所に届くだけです」

香港では、「ボングをつくっている」と言うと、いつも驚かれるそうです。
「毎日出会うタイプの人間じゃないですからね(笑)。カリフォルニアなら、そこまで珍しくもないんですが」
偏見と隣り合わせの業界で、彼が大切にしているのは、大麻との向き合い方そのものです。
「多くの人は、大麻をただの嗜好品だと思っています。消費して、何かを得るだけのものだと。でも違う。意図と感謝を持って使えば、内側からの癒し、スピリチュアルな体験になるんです」
「危険なのは、習慣に堕ちること。朝起きて吸って、昼にまた吸って。それはただの惰性です。意図を持って使えば、創造性も、感謝の気持ちも生まれてくる。この『裏側にあるもの』を伝える教育こそが、必要なんだと思います」
もはや大麻は「ハイになるためだけのもの」ではなく、体験であり、儀式であり、ライフスタイルである。
ガラスのイノベーションは、大麻文化そのものを現代へアップデートする手段だと、彼は考えています。

最後に、勃興しつつある日本のCBD・ヘンプ業界へ、7年間の孤独な戦いを生き抜いた男からの助言を求めました。
「もし私が日本にいたら、まず第一に、業界の『正しい人たち』とつながります。サンフランシスコには商工会議所のようなコミュニティがあって、業界の仲間と一緒にミーティングやカンファレンスに通っていました。孤立してはいけません」
「第二に、業界の変化を学び続けること。この業界の変化は、ゆっくりは来ません。突然、大幅に、システムごとひっくり返しに来ます。適応できる者だけが残るんです」
「第三に、信念と粘り強さ。『何の進歩もない』としか思えない時期が、必ず、何度も来ます。それでも自分と、自分のやっていることを信じ抜くこと。これが一番大事かもしれません」
「そして第四に、逆風を織り込んでおくこと。政府、法律、業界ルール。向かい風は必ず吹きます。想定内にしておけば、折れずに済みます」
さらに資金についての実践的な金言も残しています。
「銀行には常に十分な資金を。資金不足は、想像以上にあなたを減速させます。必要額の2倍を調達しなさい。必要な額は、決して足りないものだから」

シャワー室の7枚のスケッチから始まり、空港での入国拒否、7人から2人へのチーム崩壊、初売上まで30日の沈黙、そして7年間の香港からのリモート経営。
普通なら、どこか一つで折れていたはずです。
しかし彼は、フォーブスの誌面で「ガールフレンドにプロポーズしたい」と語っていた男でした。
7年越しにその後を尋ねると、彼は笑ってこう答えました。
「彼女は今、僕の妻です。香港にいますよ。息子も3歳になりました」
事業も、家族も、7年の足止めの中で、彼は何一つ手放さなかったのです。
「勝者は決して諦めない。諦める者は決して勝てない」
彼が座右に置くこの言葉は、日本の読者に贈られた「自分を信じ、粘り強くあれ」という提言と、寸分違わず重なります。
グリーンカードという7年越しの「通行手形」を手にした侍は、今、ようやく本来の戦場へ帰還しようとしています。
彼の次の一手、アメリカそして世界での卸売・流通拡大と、新方式の特許に、注目です。
| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 企業名 | VITAE Glass |
| 設立年 | 2019年 |
| 代表者 | ゴードン・ロイ |
| 所在地 | 1770 Post St, San Francisco, California 94115, US |
| 事業内容 | モジュール式ガラスボングの企画・製造・販売 |
| URL | https://www.vitaeglass.com/ |

21世紀、大麻・ヘンプ産業という名のカオス。
この不透明な業界で、それぞれの立場から、業界の夜明けを信じて戦うプロフェッショナルたちがいます。
彼/彼女たちの共通点は、その魂に、日本の武士道にも通じる誠実さと勇気を宿していることです。
本シリーズでは、世界中の最前線で活躍するプレイヤーを訪ね、大麻侍が守り抜く「信念の形」を解き明かしていきます。
本記事は、世界の大麻ビジネスの実情をレポートするものであり、日本国内での違法薬物の使用、所持、栽培、売買等を推奨・助長する意図は一切ありません(THCを含む大麻製品は、日本の法令で厳しく規制されています)。