カナダの国民的な風邪対策サプリを生んだ科学者が、今度は偏見だらけの大麻を薬に変える

PBG BIOPHARMA創業者のJacqueline Shan(Jackie)が白衣を着て研究室で微笑む様子。背景には他の研究者たちが実験作業を行っているラボの風景

カナダで風邪をひいた時にどの薬局・薬剤師からも勧められる、20年以上のベストセラーサプリ『COLD-FX(コールドFX)』。

<出典元>
▶️ COLD-FX® A Natural Health Product, Proven by Science | COLD-FX

この国民的製品を生み出し、『CVテクノロジーズ(後のアフェクサ・ライフサイエンシズ)』社を上場企業へと導いた科学者が、ジャクリーン・シャン(Jacqueline Shan)博士です。

薬理学と生理学の二つの博士号を持つ彼女は、自らを「起業家である前に、根っからの科学者」と定義します。

2018年のカナダ大麻合法化を機に、「大麻は、人類が発見した最も強力な薬用ハーブの一つ」と確信した博士。

西洋人参の品質を科学的に管理した独自の「標準化技術」を大麻に適用し、偏見に満ちたこの植物を、信頼される製薬基準の製品へと昇華させる戦いに挑んでいます。

今回は、カナダから世界展開を見据えるシャン博士の軌跡と、彼女が守り抜く「患者中心の科学」という信念の形を解き明かします。

「苦い薬」に好奇心を抱いた少女が、二つの博士号を手にするまで

学生時代のジャクリーン・シャン(Jacqueline Shan)博士

シャン博士のルーツは、ハーブ医療が日常や医療制度に深く根を下ろす中国にあります。

「子どもの頃から、祖母や母のハーブ料理を食べ、苦いハーブベースの薬を飲まされて育ちました。それが健康の改善に役立つことを身をもって知っていた私は、好奇心旺盛だったので、一体この苦い水には何が入っていて、なぜ気分が良くなるのだろう?といつも不思議に思っていました」

この素朴な好奇心が、彼女の生涯のキャリアを決定づけました。

『北京協和医学院』で薬理学博士、カナダの『アルバータ大学』で生理学博士を取得した彼女は、東洋の自然の知恵と西洋の近代医学・生理学を融合。

ハーブという「自然の処方箋」を科学の光で検証する力を手に入れたのです。

カナダNo.1の風邪薬『COLD-FX』と、10年かけた「標準化」の闘い

『COLD FX』の公式サイトとCVテクノロジーズ時代の研究風景

博士が最初の成功を収めたのは、1990年代の『アルバータ大学』在籍時でした。

彼女が共同開発したのが、天然成分の化学的プロファイルと生物学的活性を特定し、「バッチ間の一貫性(品質の均一性)」を保証する独自技術です。

この技術を基に『CVテクノロジーズ』を創業し、10年以上の開発を経て西洋人参を原料としたサプリメント『COLD-FX』を誕生させました。

「多成分からなる植物は、種や生育環境で化学プロファイルがブレてしまう。この『ブレ』こそが、ハーブ製品がブラックボックスとして敬遠され、信頼を損ねてきた最大の原因でした」

シャン博士は西洋人参の品質管理を科学的に高め、毎回完璧に一貫した製品を作り出しました。

「効果がなければ意味がない」という信念のもと、科学的な裏付けを得た『COLD-FX』は、カナダの国民的な風邪対策サプリとして一般家庭に浸透しています。

2018年、大麻合法化の鐘。最も強力な「薬用ハーブ」への挑戦

PBG BIOPHARMAの公式サイト

2018年、カナダは大麻の完全合法化に踏み切りました。

人々が「娯楽の解禁」に沸く中、シャン博士は静かに科学者としての情熱を燃やしていました。

「大麻は豊富な化学物質を含み、治療ポテンシャルを秘めた『最も強力な薬用ハーブの一つ』。しかし長年の禁止で臨床研究が不足していました。今こそ、かつて培ったバイオ標準化技術を適用する好機だと確信したのです」

『COLD-FX』は今もカナダのトップに立ち続けています。

博士自身も、その旅を止めることはありませんでした。

植物化学ベースの開発・商業化への情熱を絶やすことなく。

そして2018年、『PBGバイオファーマ(PBG BioPharma Inc.)』を設立しました。

<出典元>
▶️ PBG BioPharma Inc. | Phytopharmaceuticals

しかし、その船出は困難の連続でした。

パンデミック禍で製薬基準のクリーンラボや抽出施設を1年で建設したものの、『カナダ保健省』からのライセンス取得手続きにさらに2〜3年を要し、法的なタイムラグが大きな重荷となりました。

さらに解禁後は企業が乱立し、過剰供給による過酷な価格競争が勃発しました。

「多くの競合が倒産する波を私たちも経験しました。それでも『製薬基準の品質にこだわり、一貫した製品を提供する』というビジョンを曲げなかったことが、最終的に生き残り、成長する基盤となったのです」

『PBGバイオファーマ』は、処方薬から、市販向けの機能性食品原料まで、すべて同じ製薬基準(GMP)で製造しています。

主力となる処方薬候補の『ProZ001』は現在、アルツハイマー病の症状緩和と急性双極性うつ病の補助療法を対象に、複数の臨床試験が進行中。

現在、アルバータ州とブリティッシュコロンビア州にまたがる約70,000平方フィートのGMP準拠施設を有する垂直統合型のバイオ製薬企業へと成長しています。

東洋の調和とモルヒネの真実:薬理学者が語る、アジアの偏見(スティグマ)を溶かす「用量」の科学

ジャクリーン・シャン(Jacqueline Shan)博士のラボでの研究風景

中国系カナダ人であるシャン博士は、日中と同様に強い大麻への社会的偏見(スティグマ)に自身も直面したことを認めます。

「ええ、私も強く偏見を感じていました。歴史的に長く犯罪とされ、研究も制限されてきたからです」

しかし、大学院時代にモルヒネを含む規制薬物を研究した経験が、その偏見を乗り越える契機となりました。

「モルヒネは厳しく制限されていますが、病院では手術後の最も優れた鎮痛薬として日々使われています。つまり、禁止のレッテルではなく、その植物が持つ本来の『薬理学的価値』をどう開発するかが重要なのです」

ここで博士は、薬理学のゴールデンルールとも言える決定的な信念を口にします。

「どれほど優れた有効成分であっても、過剰摂取すればただの毒になります。しかし、厳密な科学的検証に基づき、安全性が担保される狭い窓口、すなわち『治療域』の中で適切に用量を管理できれば、多くの命に関わる病気や苦痛を治療する素晴らしい薬へと変わります。すべては『用量』の問題なのです」

感情的な偏見を終わらせるのは、研究を増やし、規制を整え、エビデンスを積み重ねること。

「一貫した安全性と効果を数値で実証し、公衆に示し続ける。その確固たる科学的根拠こそが、大麻のブラックボックスを透明にし、社会の偏見を自然と溶かしていく唯一の道なのです」

ブラックボックスをこじ開ける「3次元の指紋」:GenBioChem® トリプル・フィンガープリンティング技術

ジャクリーン・シャン(Jacqueline Shan)博士のラボでの研究風景

大麻やCBDが偏見を持たれるのは、「中身が何であるか不透明なブラックボックスだからだ」とシャン博士は指摘します。

「消費者が安心して使うためには、医師や患者に対して『各バッチが毎回、完璧に同じ品質、配合、安全性である』という一貫性を保証しなければなりません」

成分が複雑な大麻エキスでは、一つの化学成分を測定するだけでは不十分です。

そこでシャン博士が開発したのが、特許出願された検証プラットフォーム『GenBioChem® Triple Fingerprinting Technology™(トリプル・フィンガープリンティング技術)』です。

この技術は、品質を一貫して保つために「3つの次元の指紋」を最初から最後まで測定します:

  1. 遺伝的(Genetic): 見た目が同じでも品種によってDNAが異なるため、原料植物自体の遺伝的構成を検証し、起源と真正性を100%追跡可能にします。
  2. 化学的(Chemical): 抽出液に含まれる数百種類のカンナビノイドやテルペンの「全体の化学プロファイル」を網羅的に特定し、全体の「化学的な指紋」を一致させます。
  3. 生物学的(Biological): 抽出された製品が体内で実際に機能するか、実験室内の細胞アッセイ(生物学的試験)にかけてバッチごとに同一の効果を発揮するか検証します。

「遺伝、化学、生物学。この3次元の網の目を最初から最終製品まで通すことで、初めて『毎回、同じ効果と安全性を保証できる』と言い切れるのです」

「レクリエーション」の影に隠れた、真のウェルネスというフロンティア

PBG BIOPHARMAのメンバー

カナダにおける大麻合法化初期は、資金の多くが「レクリエーション(娯楽用)」に偏り、健康・ウェルネス分野への臨床研究の投資は置き去りにされてしまったとシャン博士は言います。

「しかし、ハイになりたい娯楽ユーザーは市場の一部。社会の大部分は、偏見を抱えながらも『安全で、痛みを和らげ、不眠を改善し、気分を落ち着かせてくれる臨床的エビデンスのある製品』を必要としているのです」

「健康とウェルネス」こそが、大麻の長期的な希望です。

現在、『PBGバイオファーマ』は大学や臨床医と提携し、主に政府資金の支援を受けて2つの臨床研究(治験)を進めています。

カナダ政府がカンナビノイドの臨床研究に総額2,400万カナダドル(約26億円)の国費投資を発表するなど、風向きは科学的検証へとシフトしつつあります。

品質大国・日本への提言:「処方薬か禁止か」の二択を超えて、機能性食品も含めた幅広い選択肢を

リラックスしたジャクリーン・シャン(Jacqueline Shan)博士

日本市場の未来について、シャン博士は実践的なアドバイスを寄せてくれました。

「日本は洗練された製薬業界があり、消費者は品質や科学的エビデンスを極めて高く評価します。私たちがカナダから学んだ教訓は、ビジネスを構築する際、市場を過大評価しないこと。品質を最優先し、科学的検証に投資を呼び込むことが成功の鍵になります」

さらに博士は、日本および世界の大麻規制の未来に向けて提言を投げかけます。

「大麻成分を厳しい処方箋医薬品としてのみ管理すべきではありません。エビデンスが証明されたカンナビノイドについては、過度な規制を排した、より人々がアクセスしやすい『機能性食品・サプリメント』としての規制枠組みを整えるべきです。私の『COLD-FX』も、実際には市販のサプリメントとしてのニーズの方が遥かに高かったのです。業界と政府が協力してその道を拓けば、大きな可能性が広がります」

つまり、シャン博士が掲げる「大麻を薬に変える」というビジョンは、一部の限られた人だけが手にする高価な処方薬を目指すことと同義ではありません。

かつての『COLD-FX』のように、徹底的な科学的エビデンスと品質保証によって、誰もが薬局で安心して手に取れる、機能性食品(ニュートラシューティカル)という身近な治療・ウェルネスの形まで含めて社会に届けること。

それこそが、彼女にとっての真の「薬」であり、大麻の治療ポテンシャルを民主化するための確固たるロードマップなのです。

まとめ

現在、『PBGバイオファーマ』は国際展開を加速させています。

最後に、シャン博士が貫き続ける科学者としての最大の哲学を聞きました。

返ってきたのは、強固な「患者中心主義」という信念でした。

「一番大切なのは、患者やエンドユーザーをすべての中心に置くこと。メーカー、科学者、医師、政府、すべては患者の健康のために存在し、奉仕する存在でなければなりません。だからこそ、消費者が本当に必要とするものを提供し、毎回一貫した結果を保証する責任を負わなければならないのです」

「大麻」という言葉に付いて回る恐怖や偏見を感情的に否定せず、ただ科学という一本の刀を静かに研ぎ澄ませ、3次元の網の目によって不透明なブラックボックスを、人々の健康を守る信頼の「薬」へと美しく変えてみせるだけです。

「いつか、私たちが国際展開を進める中で、お会いできる日を楽しみにしています。カナダに来られた際は、ぜひ私たちの最先端施設を訪ねてくださいね」

世界一の品質大国を自負する日本に、彼女の「3次元の指紋」が刻まれたサプリメントが届く日は、そう遠くないはずです。

項目情報
企業名PBG BioPharma Inc.
設立年2018年
代表者ジャクリーン・シャン博士(Dr. Jacqueline Shan)
所在地4101 65A Ave, Leduc, AB T9E 0Z4 Canada.
事業内容科学的根拠に基づいた大麻成分、栄養補助食品、バイオ医薬品の研究・開発・製造・検査
URLhttps://www.pbgbiopharma.com/

シリーズ『世界の大麻侍』

21世紀、大麻・ヘンプ産業という名のカオス。

この不透明な業界で、それぞれの立場から、業界の夜明けを信じて戦うプロフェッショナルたちがいます。

彼/彼女たちの共通点は、その魂に、日本の武士道にも通じる誠実さと勇気を宿していることです。

本シリーズでは、世界中の最前線で活躍するプレイヤーを訪ね、大麻侍が守り抜く「信念の形」を解き明かしていきます。

本記事は、世界の大麻ビジネスの実情をレポートするものであり、日本国内での違法薬物の使用、所持、栽培、売買等を推奨・助長する意図は一切ありません(THCを含む大麻製品は、日本の法令で厳しく規制されています)。

執筆者

CBD Library for Biz編集長

国内外の規制・医療・産業動向を、焦らず、騒がずほどほどに。年末恒例『大麻・CBDニュース総選』や業界レポート『CBD白書』も主催しています。 ▶︎日本臨床カンナビノイド学会会員/MM411カンナビスコンサルタントコース修了/MM411CBD医学ウェルネスコース修了/薬事法管理者/機能性表示食品検定上級エキスパート/アロマテラピー検定1級/貿易実務検定C級

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