世界一の物価、世界一の管理水準、そして世界でも珍しい4つの公用語を持つ国。
そんなスイスで、四半世紀にわたって続けられてきた大麻見本市があることをご存じでしょうか。
2026年5月、25周年を迎えた『カンナトレード2026(CannaTrade2026)』を訪れました
https://www.cannatrade.ch/
カンナトレード公式サイト
欧州大麻市場が医療大麻へと大きく舵を切る中、スイスはいかなる独自路線を描いているのか?
現地で見えてきたのは、単なる大麻カンナビス関連の見本市ではなく、スイスと欧州における産業の歴史そのものを映し出すイベントでした。

会場となった『Halle 622』には、医療用大麻、CBD製品、栽培技術、ヴェポライザー、食品、化粧品など、多様な企業が集結。
欧州各国から業界関係者や消費者が訪れ、最新の市場動向や規制の方向性について活発な情報交換が行われています。

今回、特に印象的だったのは、まず『カンナトレード』が歩んできた25年の歴史です。
主催者のマルコ・クーン(Marco Kuhn)氏によれば、そのルーツは1997年に遡ります。

当時、スイスではTHCを含むバッズが「Duftsäckli(香り袋)」と呼ばれる名目で販売されていました。
法的なグレーゾーンの中で、大麻産業はこの時期に急成長していきます。

スイス国内ではパン屋よりも大麻ショップの方が多いと言われるほど市場が拡大し、世界中から事業者が集まる“大麻の聖地”として知られていたといいます。

その流れの中で1997年に誕生した『カンナトレード』は、ドイツの『メリー・ジェーン(Mary Jane)」やオランダの『カンナビス・カップ(Cannabis Cup)』と並ぶ、欧州有数の大麻見本市へと成長しました。
しかし2000年代後半、各国の規制強化によって市場環境は急変します。
種子販売規制などの影響で展示会の存続そのものが危ぶまれ、主催者たちは粘り強く開催を続けたものの、ついに2011年には一時休止を余儀なくされました。
それでも『カンナトレード』は終わりませんでした。
2016年以降、CBD市場の本格化を追い風に、見本市は再び大きく飛躍を遂げます。

さて、スイスは日本と比べれば大麻やドラッグに対して寛容な国です。
とはいえ、品質と管理においては「さすがスイス」と言うべき厳格さがあります。
欧州の真ん中に位置していながら、スイスはEU(欧州連合)に加盟していません。
そのため国境管理は今もしっかりと機能しています。
筆者自身、チェコから車でドイツを経由して入国しましたが、国境での警備は予想以上に厳重でした。
車は停車を求められ、ドラッグテストの実施、そして手袋をはめた警察官による車内の徹底チェック。
違法な物品や関税対象品の持ち込みには、特に厳しい目が向けられます。

このように、物価も管理水準も世界屈指のスイスでは、見本市への運送・出展・販売に至るまで、他の欧州諸国以上に厳格な管理が行き届いています。
そのためスイスの『カンナトレード』は、他の欧州の大麻見本市とは趣が異なります。
欧州の常連ブランドが少なく、出展者も来場者もスイス人が中心。
「スイス独自のマーケット」が確かに存在していると、現地で強く感じました。

次に印象的だったのは、医療用大麻への強いフォーカスです。
長い歴史を持つ『カンナトレード』は、いまや欧州市場の変化を映し出す重要なプラットフォームとなっており、その視線は明確に「医療用大麻」へと向けられていました。

会場内で大きな存在感を放っていたのが、スイス企業のみで構成された「メディカルパビリオン」です。
医療用大麻やその周辺領域に特化した企業が並ぶ、専用セクションでした。
筆者はこれまで、ドイツ、スペイン、チェコなど欧州各地の大麻関連見本市を数多く取材してきました。
しかし、医療用大麻に絞った専用セクションを目にしたのは、今回のスイスが初めてです。

今回の取材で見えてきた、現在の欧州市場と規制の傾向は、次の3点に集約されます。
- CBDの1日あたり摂取上限の引き下げ
- GMP(医薬品製造管理基準)やノベルフード規制に代表される、品質認証と安全基準の再定義
- 違法マーケットの排除と、カンナビノイドの管理体制を強化した上での合法化・正規流通化
これらの傾向が重なり合いながら、欧州の大麻市場は確実に「医療用大麻」の方向へと舵を切っています。

しかしスイスはそれだけではありません。
企業による研究開発や医療用製品の輸出入、さらには臨床研究に関する展示も着実に増えています。
スイスの大麻産業は今、嗜好品市場としてのTHC製品、健康・ウェルネス市場としてのCBD製品、そして本格的な医療産業、この「三刀流」で発展していると言えるでしょう。

さて、会場は中も外も活気にあふれています。
最近の欧州見本市では、嗜好用大麻の関連グッズだけでなく、半合成カンナビノイド、クラトム(東南アジア原産の植物)、カヴァ(南太平洋の嗜好植物)、マジックマッシュルームといった、大麻以外の嗜好品・代替植物の出展も急増しています。
しかし、スイスの『カンナトレード』では、これらの取り扱いがすべて主催者によって厳しく禁止されています。
「大麻のみを扱う見本市」というスイスらしい厳格な姿勢が、ここにも表れています。

逆に、思いのほか、ヘンプ系アパレルやカンナビス&アート関係のブースが目立っています。

他の欧州見本市では下火になりつつあるヘンプ食品やCBDオイルといった定番アイテムも、スイスではいまだ健在です。
古き良き大麻産業の姿を残しているのも、スイスらしい特徴と言えるでしょう。

もちろん、他の見本市と同様の定番ラインナップも揃っています。
大麻の種、THC1%未満の乾燥大麻やハシシ、栽培用の肥料やライトなどが販売されていました。

また、カンナトレードでは大麻をテーマにしたカンファレンスも恒例イベントの一つです。
業界関係者が登壇し、市場動向や規制について議論を交わす場となっています。
今回のカンファレンスで印象的だったのは、英語よりもドイツ語での議論が中心だった点です。

ちなみにスイスは、東部・中部のドイツ語、西部のフランス語、南部のイタリア語、そして南東部の一部で話されるロマンシュ語と、4つの公用語を持つ世界でも珍しい多言語国家です。
面積は九州とほぼ同じながら、ひとつの国の中に複数の言語圏が共存しているのです。

もうひとつの恒例イベントが『スイスカンナビスカップ』です。
Switzerland’s Cannabis Cup
スイスカンナビスカップ公式サイト
欧州の多くの大麻見本市では、主催者が同時開催企画として、乾燥大麻・ハシシ・レジンといった部門ごとに年間最優秀を選ぶコンクールを開催しています。
『スイスカンナビスカップ』も、その流れを汲む大会です。

ほかにも、ジョイントを巻く速さを競う「早巻き大会」が恒例企画として開催されています。
会場は、来場者が大麻をリラックスして楽しむためのスペース「チルルーム」の隣。
和やかな雰囲気の中、白熱した競技が繰り広げられていました。

スケボーエリア、グラフィティエリア、ガラスボング(大麻用の水パイプ)の実演ブースなど、商業的な展示だけでなく、大麻を取り巻くカルチャーまでも楽しめるのが『カンナトレード』の魅力です。

以上、25周年という節目を迎えた『カンナトレード2026』は、スイスの現代大麻史を読み解く絶好の場でした。
グレーゾーンの時代から始まり、規制の波に揉まれ、CBDの追い風で復活し、いま医療大麻という新たな段階に踏み出している。
この25年の歩みは、欧州の大麻産業の縮図そのものです。
そして注目すべきは、スイスがそのすべての段階を、世界トップクラスの「品質と管理」を保ちながら歩んできたという事実です。
寛容さと厳格さ、嗜好と医療、伝統とイノベーション。
相反するものを矛盾なく両立させる「三刀流」のスタイルは、いま医療大麻の制度化が始まったばかりの日本にとっても、示唆に富むモデルケースと言えるでしょう。
品質と管理の国スイスが、次の25年でどのような独自路線を描いていくのか。
スイス独自のマーケットの行方を、引き続き追いかけていきたいと思います。
※本記事は、世界の大麻ビジネスの実情をレポートするものであり、日本国内での違法薬物の使用、所持、栽培、売買等を推奨・助長する意図は一切ありません(THCを含む大麻製品は、日本の法令で厳しく規制されています)。





