日本の大麻産業の進歩を50年から5年に早める、対話のオーケストレーター

中澤亮太(Asabis)

2023年11月10日。

衆議院厚生労働委員会。

75年ぶりに大麻取締法が改正される審議の場で、民間事業者としてただ一人、参考人席に座った人物がいます。

マイクを握った彼は、業界内の偽造と不正を名指しで指摘しました。

「COAと呼ばれる成分分析表を、原料の段階であったり製品製造の段階で、偽造したりだとか、複数の別の製造ロットで使い回したりしています」

「悪貨が良貨を駆逐するというような状況が、アメリカでは発生しており、日本でも起きかねません」

業界の中にいながら、業界内の不正を公の場で名指す覚悟。

CBD・産業用ヘンプ・医療大麻という、本来は原料も用途も違う3つの領域ですが、外から見れば「大麻」でひとくくりにされます。

業界内に不正があれば、それぞれすべてが同じ色で見られる。

だからこそ、業界内の悪貨を切り分けなければ、3領域は同じ卓につけません。

議場でその切り分けを引き受けたのが、中澤亮太氏です。

『Asabis株式会社』の代表取締役社長であり、日本最大級の国際ヘンプ総合展『JIHE(Japan International Hemp Expo)2026』の主催者です。

<出典元>
▶️ Asabis Inc. | 日本のヘンプ・CBD業界インフラを構築(公式サイト)
▶️ JIHE 2026 | 国際ヘンプ博覧会 — 日本最大級ヘンプ・CBD展示会(公式サイト)

同時に『JCF(日本カンナビノイド関連団体連盟)』事務局、カンナビノイド検査機関『KCAラボジャパン』共同創業、コミュニティ『CBD部』の運営者という顔も持ちます。

<出典元>
▶️ Japan Cannabinoid Federation | 日本カンナビノイド関連団体連盟(公式サイト)
▶️ KCAラボジャパン | CBD検査・カンナビノイド専門検査機関(公式サイト)
▶️ CBD部 | 日本のCBD・ヘンプ業界メディア(公式サイト)

業界内では愛称「ロジャー」で親しまれ、2020年の『CBD部』立ち上げ以来、業界に欠けていた情報インフラ、メディア、年次レポート、カオスマップ、展示会を埋めてきた異色の存在です。

開成高校から一橋大学経済学部、イリノイ大学留学、IT上場企業の南米駐在を経て、海外マーケティング会社の起業、フランス系企業の日本法人社長。

日本では認知度も低く、偏見すら持たれるCBD業界に最も遠いように見える、グローバルビジネスのど真ん中を歩いてきたキャリアの持ち主です。

彼が取材の中で、何度も繰り返した言葉があります。

「このまま自然に待てば、業界が花開くまで50年かかる。それを、5年に早めたい」

それが、中澤氏の課題感です。

そしてその課題を解決する彼の武器は、対話です。

CBD・産業用ヘンプ・医療大麻は、互いの卓につきません。

嗜好用合法化のうねりは、産業の軸を引きずり倒そうとします。

業界の内側では、COA偽造や新規合成カンナビノイドが見過ごされてきました。

日本の基準値は、国際標準との会話を失っています。

言論ではなく、商材ではなく、同盟でもなく、対話。

彼が選び続けているのは、ずっとそれだけです。

“ゆるっと”始まった対話の場。『CBD部』から『JIHE 2026』へ

『CBD部』トップページ

彼がこの業界に飛び込んだ当初、強烈な使命感はありませんでした。

2018年から2021年にかけて、フランス系企業の日本法人社長を務めていた彼は、EUやアフリカとの時差ミーティングで心身を崩していました。

サウナを試し、枕を変え、辿り着いたのがCBDでした。

「これは面白い。そして、効く」

いちCBDユーザーとして使い始めた彼は、周りの経営者たちも睡眠の悩みを抱えていることに気づき、情報収集と発信を兼ねたコミュニティ『CBD部』を立ち上げます。

これまで開催したオフ会は20回、関連イベントを含めると累計100回近くにものぼります。

2021年、CBDユーザーと事業者の交流が深まるなかで企画された最初の展示会『CBDジャーニー』は、出展20社超の規模でした。

「これは、会社をつくらなきゃダメだ」

2021年8月2日、『Asabis株式会社』設立。

6日後の8月8日、『CBDジャーニー』第1回開催。

資金はすべてポケットマネーで、公庫や信用金庫からの借入もなし。

役員報酬は現在に至るまで一度も受け取っていません。

『Asabis』に蓄積された収益は、全額、次のイベント強化や海外ネットワーク構築、若手メンバーへの還元に回されています。

「趣味が高じて会社ができた」

本人は笑ってそう言います。

しかし、”ゆるっと”始まったこの対話の場は、『JIHE』へと名を変え、2026年には累計来場者7,000名超・累計参画企業300社超の規模にまで育っています。

2026年の『JIHE』は、建物一棟を貸切にした没入体験型。

欧米だけではなく、アフリカやモンゴルからも業界のトップランナーを招聘。

進化は止まっていません。

自社ブランドを捨てた理由。「5年に早める」ためのプラットフォーマー戦略

CBD・ヘンプ業界で中澤氏が最も強いこだわりを持っているのは、「自社ブランドを持たない」という一点です。

「つくろうと思えばつくれます。でも、それは自分の強みを殺す選択でした」

彼のバックボーンは、IT・プラットフォーム企業です。

南米駐在時代も、フランス系企業時代も、彼が扱ってきたのは、マッチング型・プラットフォーム型の事業でした。

モノづくりは、自分の強みではない。

「他にやる人がいる領域で、自分がやる必要はない。業界が立ち上がる時に、自分が立つべきは、場をつくる側でした」

その想いのもと、『Asabis』は3つのインフラ構築に取り組んでいます。

  • 情報格差の是正(有識者連携のメディア、コミュニティ、規制提言)
  • 事業者支援(セミナー、コンサルティング、ロス削減)
  • 市場認知の向上(大手連携、メディア露出、展示会)

今、中澤氏が掲げるのは、「日本の大麻産業の進歩を50年から5年に早める」。

自社ブランドを立ち上げ、売上を伸ばすよりも、業界全体の時計を進めるほうが、彼にとっては合理的な選択でした。

「小さい産業だからこそ、自分たちのアクションが業界に与えるインパクトは大きいです。IT業界で何十億売り上げても業界は変わらない。でも、CBD・ヘンプ産業なら、変えられます」

国会で業界内の不正を名指した日

▲ 1:38:34より登壇

2023年11月10日。

衆議院厚生労働委員会は、75年ぶりの大麻取締法改正を審議していました。

参考人として呼ばれた中澤氏は、民間事業者として、業界の実態を正確に伝える責任を背負って議場に入りました。

「成分分析表(COA)の偽造」。

「ロットの使い回し」。

「クライアントの思うとおりに検査結果を安く出す、ラボショッピングの風習」。

業界の中にいる民間事業者が、業界内の不正を国会の議事録に刻む判断。

それは、業界内のネットワークと信頼を同時に賭ける行為でした。

同時に中澤氏は、国際基準への適合も強く主張しました。

「微量のTHCに関しては、特に幻覚作用もなく乱用のおそれがないという論文もある」

「日本のガラパゴス的な基準にするのではなく、欧米の国際基準とそごのないようなもの」にすべきだ、と。

「必要以上の厳しい規制、逆にまったくルールを定めないというようなことが起きないように、健全に産業が発展していく」

議場で彼が守ろうとしたのは、業界内の仲間ではなく、業界そのものの正統性でした。

悪貨を名指すのは、良貨を守るため。

彼は、この日、業界側から業界にやるべきでないことをはっきり宣言したのです。

対話を開くために、まずポジションを明確にする

『JIHE2026』のポリシー

2026年の『JIHE』で、中澤氏は、これまで文章にしてこなかったあるスタンスを初めてプレスリリースに明記しました。

<出典元>
▶️ 【登壇者・参画企業発表】国際ヘンプ博覧会「JIHE 2026」、100以上の企業・団体・ブランドが参画、ヘンプ・CBDの国内外の専門家が2日間で議論|11/13-14 東京・表参道(PRTIMES)

「『JIHE』は、嗜好用大麻合法化を主張するプラットフォームではない」

展示は産業用大麻、カンファレンスでは医療大麻も扱います。

しかし、嗜好用については肯定も否定もせず、推奨もしません。

新規合成カンナビノイドは扱いません。

きっかけは、『JIHE』の後援でもある海外業界団体との対話でした。

彼らと話をするたび、必ず問われたのです。

「このイベントは、どんなスタンスなのか?」

「嗜好用大麻合法化をどう考えているのか?」

「新規合成カンナビノイドをどう扱うか?」

答えは、彼の中にはすでにありました。

嗜好用大麻の解禁を主張してしまうと、産業用・医療用の正統性までもが疑われ、「大麻の可能性」自体が多くの人に届かなくなる。

だから、産業用と医療用を守るために、嗜好用とはいったん切り分ける。

「業界内では賛否両論ある判断でしょう。でも、より多くの人と上手く組んで、健全な形で業界を広げていくためには、今の時点では、これが丁度いい塩梅だと思っています」

対話を開くために、まずポジションを明確にする。

彼が定めたラインは、『JIHE』が世界の大麻産業と対話するためのパスポートになりました。

「ダメ。ゼッタイ。」に手を差し出した日

もちろん対話は、すべてが実を結ぶわけではありません。

ある時、彼は、薬物乱用防止の啓蒙活動を担う団体に、ある提案を持ちかけました。

「『JIHE』の会場で、御社の教材やポスターを配りませんか。啓蒙に、これほどいい場所はないと思うのですが」

違法な薬物乱用と、合法的なCBD・ヘンプ製品との違いを、業界の最大の集まる場で明確に示す。

そのためのコラボレーションでした。

「業界における法令遵守や自主規制には敬意を表します。しかし、CBDについても副作用を生じる可能性についての懸念がある」として、連携は実現しませんでした。

それでも、彼は攻撃をしません。

「向こうが拒否しても、こちら側からは歩み寄り続ける。それがプラットフォームを運営する側の責任だと思っています」

現在の温厚な風貌とロジカルな語り口からは想像もつきませんが、中学時代の彼は、感情的で喧嘩っ早いタイプの少年でした。

力で解決しようとしていました。

開成高校に入り、周囲の精神的に成熟した仲間に囲まれて、「冷静に話せば分かり合える」という下地が身につきました。

「分かり合えなかったら、それはしょうがない。でも、攻撃する必要はない」

国会で業界内の不正を指摘した時も、薬物乱用防止団体に拒否された時も、彼の武器は、力ではなく、対話でした。

2029年、エビデンスで動かす3年間

青いラボコートを着た男女約20人が、石造りの建物のガラスドア入口前で笑顔で並んで記念撮影している集合写真

2024年12月、大麻取締法と麻向法が改正されました。

医療用大麻が解禁され、同時に「使用罪」が新設。

2026年には、CBNが指定薬物化の方向で審議され、厳格化されました。

事業者の撤退は加速し、既存CBDブランドは肌感で1/3まで減少したと言います。

しかし、法改正には「2029年に見直される可能性」が組み込まれています。

2029年。

それが、業界にとっての次の分岐点です。

その3年間を、エビデンス構築に充てる。

中澤氏が今、最も力を入れている戦いです。

現在、彼は、業界内の8団体を束ねる『JCF』の事務局として、隔週でミーティングを重ねています。

「残留限度値を国際基準に合わせるべきエビデンス」

「医療用途における臨床的な根拠」

「貿易実務における日欧米の整合」

これらを、業界団体・臨床カンナビノイド学会・各企業が連携して積み上げる。

<出典元>
▶️ 一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会(公式サイト)

そして、規制当局や国会議員との対話に持っていく。

「エビデンス構築という言い方は、ちょっと政治的すぎるかもしれません。でも、2027年までに業界としてそろえておかないといけないものは、確実に積み上がっています」

『JIHE』、『JCF』、『2027年法改正見直し』。

3つの対話の場が、日本の大麻産業の進歩を50年から5年に早めるために動いています。

日本のORIGIN(原点)。鳥浜貝塚から2036年へ

博物館の展示写真。左側は「Cannabis in the Ancient World」と題した赤いパネルで、日本・トルコ・中国など古代の大麻の歴史が写真付きで紹介されている。右側上部は「CANNABIS JAPONICA Shinto & the Spirit of」と大書されたオレンジの壁に「麻」の文字。下部はガラスケース内に古い和本と麻繊維が展示されている様子

対話を続ける根拠は、どこにあるのでしょうか。

彼は、意外な場所をその答えに挙げます。

オランダ・アムステルダムの大麻博物館。

そこに、こんな展示があるそうです。

「世界最古の大麻の記録は、日本である」

福井県の鳥浜貝塚の縄文時代の遺跡から、麻の痕跡が発見されています。

中国説もありますが、少なくとも日本には、縄文時代から麻を生活に取り込んできた長い歴史があります。

神事、繊維、建材、燃料。

「技術と歴史を掛け合わせたポジションは、日本ならではのものだと思っています。アメリカ、ヨーロッパ、タイなど、自分たちよりもスケールが大きい海外事業者たちと割と対等に話せているのも、そこにリスペクトがあるからかもしれません」

『JIHE 2026』のテーマ「Break the Bias, Back to ORIGIN── 偏見の向こうに、原点がある」。

その「ORIGIN」は、西洋のカウンターカルチャーでも、カリフォルニアのスタートアップ文化でもなく、鳥浜貝塚にあります。

「縄文時代からの長い歴史と、最新のエビデンスと、国際基準の規制がそろった業界を目指したい」

彼は、冷静にそう語ります。

まとめ

3枚の写真を組み合わせたコラージュ。左は国際会議会場での自撮り写真、右上は展示会で伝統衣装を着た人と笑顔でポーズを取るグループ、右下は「ASIA INTERNATIONAL HEMP EXPO & FORUM 2024」のポスターと参加者の集合写真

中学時代は力で人を動かす。

高校で「冷静に話せば分かり合える」という下地が生まれました。

衆議院の議場でマイクを握った時も、薬物乱用防止団体に提案を持ち込んだ時も、『JIHE』のスタンス表明をプレスリリースに刻んだ時も、彼が選んだのは、対話でした。

自社ブランドを持たず、CBD・ヘンプ・医療の分断を越え、業界の悪貨を名指し、海外の業界団体とは手を結ぶ。

『JIHE』、『JCF』、『2027年法改正見直し』。

対話のオーケストレーターは、今日も指揮棒を振っています。

業界が自然に花開くのを待てば、50年。

対話で動かせば、5年。

時計の針を進めるために、彼は息切れしないよう、冷静に、長く、立ち続けます。

項目情報
企業名Asabis株式会社
設立年2021年
代表者中澤 亮太
所在地〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-23-4 桑野ビル2F
事業内容CBD/カンナビノイドに特化したメディア、コミュニティ、プラットフォームの企画・開発・運営
URLhttps://www.asabis.co.jp/

シリーズ『世界の大麻侍』

21世紀、大麻・ヘンプ産業という名のカオス。

この不透明な業界で、それぞれの立場から、業界の夜明けを信じて戦うプロフェッショナルたちがいます。

彼/彼女たちの共通点は、その魂に、日本の武士道にも通じる誠実さと勇気を宿していることです。

本シリーズでは、世界中の最前線で活躍するプレイヤーを訪ね、大麻侍が守り抜く「信念の形」を解き明かしていきます。

本記事は、世界の大麻ビジネスの実情をレポートするものであり、日本国内での違法薬物の使用、所持、栽培、売買等を推奨・助長する意図は一切ありません(THCを含む大麻製品は、日本の法令で厳しく規制されています)。

執筆者

CBD Library for Biz編集長

国内外の規制・医療・産業動向を、焦らず、騒がずほどほどに。年末恒例『大麻・CBDニュース総選』や業界レポート『CBD白書』も主催しています。 ▶︎日本臨床カンナビノイド学会会員/MM411カンナビスコンサルタントコース修了/MM411CBD医学ウェルネスコース修了/薬事法管理者/機能性表示食品検定上級エキスパート/アロマテラピー検定1級/貿易実務検定C級

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