原点は友人の依存症相談。嗜好用大麻を非犯罪化し、EU薬物政策モデルを築いた行政官
2026.10.30
2023年11月10日。
衆議院厚生労働委員会。
75年ぶりに大麻取締法が改正される審議の場で、民間事業者としてただ一人、参考人席に座った人物がいます。
マイクを握った彼は、業界内の偽造と不正を名指しで指摘しました。
「COAと呼ばれる成分分析表を、原料の段階であったり製品製造の段階で、偽造したりだとか、複数の別の製造ロットで使い回したりしています」
「悪貨が良貨を駆逐するというような状況が、アメリカでは発生しており、日本でも起きかねません」
業界の中にいながら、業界内の不正を公の場で名指す覚悟。
CBD・産業用ヘンプ・医療大麻という、本来は原料も用途も違う3つの領域ですが、外から見れば「大麻」でひとくくりにされます。
業界内に不正があれば、それぞれすべてが同じ色で見られる。
だからこそ、業界内の悪貨を切り分けなければ、3領域は同じ卓につけません。
議場でその切り分けを引き受けたのが、中澤亮太氏です。
『Asabis株式会社』の代表取締役社長であり、日本最大級の国際ヘンプ総合展『JIHE(Japan International Hemp Expo)2026』の主催者です。
<出典元>
▶️ Asabis Inc. | 日本のヘンプ・CBD業界インフラを構築(公式サイト)
▶️ JIHE 2026 | 国際ヘンプ博覧会 — 日本最大級ヘンプ・CBD展示会(公式サイト)
同時に『JCF(日本カンナビノイド関連団体連盟)』事務局、カンナビノイド検査機関『KCAラボジャパン』共同創業、コミュニティ『CBD部』の運営者という顔も持ちます。
<出典元>
▶️ Japan Cannabinoid Federation | 日本カンナビノイド関連団体連盟(公式サイト)
▶️ KCAラボジャパン | CBD検査・カンナビノイド専門検査機関(公式サイト)
▶️ CBD部 | 日本のCBD・ヘンプ業界メディア(公式サイト)
業界内では愛称「ロジャー」で親しまれ、2020年の『CBD部』立ち上げ以来、業界に欠けていた情報インフラ、メディア、年次レポート、カオスマップ、展示会を埋めてきた異色の存在です。
開成高校から一橋大学経済学部、イリノイ大学留学、IT上場企業の南米駐在を経て、海外マーケティング会社の起業、フランス系企業の日本法人社長。
日本では認知度も低く、偏見すら持たれるCBD業界に最も遠いように見える、グローバルビジネスのど真ん中を歩いてきたキャリアの持ち主です。
彼が取材の中で、何度も繰り返した言葉があります。
「このまま自然に待てば、業界が花開くまで50年かかる。それを、5年に早めたい」
それが、中澤氏の課題感です。
そしてその課題を解決する彼の武器は、対話です。
CBD・産業用ヘンプ・医療大麻は、互いの卓につきません。
嗜好用合法化のうねりは、産業の軸を引きずり倒そうとします。
業界の内側では、COA偽造や新規合成カンナビノイドが見過ごされてきました。
日本の基準値は、国際標準との会話を失っています。
言論ではなく、商材ではなく、同盟でもなく、対話。
彼が選び続けているのは、ずっとそれだけです。

彼がこの業界に飛び込んだ当初、強烈な使命感はありませんでした。
2018年から2021年にかけて、フランス系企業の日本法人社長を務めていた彼は、EUやアフリカとの時差ミーティングで心身を崩していました。
サウナを試し、枕を変え、辿り着いたのがCBDでした。
「これは面白い。そして、効く」
いちCBDユーザーとして使い始めた彼は、周りの経営者たちも睡眠の悩みを抱えていることに気づき、情報収集と発信を兼ねたコミュニティ『CBD部』を立ち上げます。
これまで開催したオフ会は20回、関連イベントを含めると累計100回近くにものぼります。
2021年、CBDユーザーと事業者の交流が深まるなかで企画された最初の展示会『CBDジャーニー』は、出展20社超の規模でした。
「これは、会社をつくらなきゃダメだ」
2021年8月2日、『Asabis株式会社』設立。
6日後の8月8日、『CBDジャーニー』第1回開催。
資金はすべてポケットマネーで、公庫や信用金庫からの借入もなし。
役員報酬は現在に至るまで一度も受け取っていません。
『Asabis』に蓄積された収益は、全額、次のイベント強化や海外ネットワーク構築、若手メンバーへの還元に回されています。
「趣味が高じて会社ができた」
本人は笑ってそう言います。
しかし、”ゆるっと”始まったこの対話の場は、『JIHE』へと名を変え、2026年には累計来場者7,000名超・累計参画企業300社超の規模にまで育っています。
2026年の『JIHE』は、建物一棟を貸切にした没入体験型。
欧米だけではなく、アフリカやモンゴルからも業界のトップランナーを招聘。
進化は止まっていません。
CBD・ヘンプ業界で中澤氏が最も強いこだわりを持っているのは、「自社ブランドを持たない」という一点です。
「つくろうと思えばつくれます。でも、それは自分の強みを殺す選択でした」
彼のバックボーンは、IT・プラットフォーム企業です。
南米駐在時代も、フランス系企業時代も、彼が扱ってきたのは、マッチング型・プラットフォーム型の事業でした。
モノづくりは、自分の強みではない。
「他にやる人がいる領域で、自分がやる必要はない。業界が立ち上がる時に、自分が立つべきは、場をつくる側でした」
その想いのもと、『Asabis』は3つのインフラ構築に取り組んでいます。
今、中澤氏が掲げるのは、「日本の大麻産業の進歩を50年から5年に早める」。
自社ブランドを立ち上げ、売上を伸ばすよりも、業界全体の時計を進めるほうが、彼にとっては合理的な選択でした。
「小さい産業だからこそ、自分たちのアクションが業界に与えるインパクトは大きいです。IT業界で何十億売り上げても業界は変わらない。でも、CBD・ヘンプ産業なら、変えられます」
▲ 1:38:34より登壇
2023年11月10日。
衆議院厚生労働委員会は、75年ぶりの大麻取締法改正を審議していました。
参考人として呼ばれた中澤氏は、民間事業者として、業界の実態を正確に伝える責任を背負って議場に入りました。
「成分分析表(COA)の偽造」。
「ロットの使い回し」。
「クライアントの思うとおりに検査結果を安く出す、ラボショッピングの風習」。
業界の中にいる民間事業者が、業界内の不正を国会の議事録に刻む判断。
それは、業界内のネットワークと信頼を同時に賭ける行為でした。
同時に中澤氏は、国際基準への適合も強く主張しました。
「微量のTHCに関しては、特に幻覚作用もなく乱用のおそれがないという論文もある」
「日本のガラパゴス的な基準にするのではなく、欧米の国際基準とそごのないようなもの」にすべきだ、と。
「必要以上の厳しい規制、逆にまったくルールを定めないというようなことが起きないように、健全に産業が発展していく」
議場で彼が守ろうとしたのは、業界内の仲間ではなく、業界そのものの正統性でした。
悪貨を名指すのは、良貨を守るため。
彼は、この日、業界側から業界にやるべきでないことをはっきり宣言したのです。

2026年の『JIHE』で、中澤氏は、これまで文章にしてこなかったあるスタンスを初めてプレスリリースに明記しました。
<出典元>
▶️ 【登壇者・参画企業発表】国際ヘンプ博覧会「JIHE 2026」、100以上の企業・団体・ブランドが参画、ヘンプ・CBDの国内外の専門家が2日間で議論|11/13-14 東京・表参道(PRTIMES)
「『JIHE』は、嗜好用大麻合法化を主張するプラットフォームではない」
展示は産業用大麻、カンファレンスでは医療大麻も扱います。
しかし、嗜好用については肯定も否定もせず、推奨もしません。
新規合成カンナビノイドは扱いません。
きっかけは、『JIHE』の後援でもある海外業界団体との対話でした。
彼らと話をするたび、必ず問われたのです。
「このイベントは、どんなスタンスなのか?」
「嗜好用大麻合法化をどう考えているのか?」
「新規合成カンナビノイドをどう扱うか?」
答えは、彼の中にはすでにありました。
嗜好用大麻の解禁を主張してしまうと、産業用・医療用の正統性までもが疑われ、「大麻の可能性」自体が多くの人に届かなくなる。
だから、産業用と医療用を守るために、嗜好用とはいったん切り分ける。
「業界内では賛否両論ある判断でしょう。でも、より多くの人と上手く組んで、健全な形で業界を広げていくためには、今の時点では、これが丁度いい塩梅だと思っています」
対話を開くために、まずポジションを明確にする。
彼が定めたラインは、『JIHE』が世界の大麻産業と対話するためのパスポートになりました。
もちろん対話は、すべてが実を結ぶわけではありません。
ある時、彼は、薬物乱用防止の啓蒙活動を担う団体に、ある提案を持ちかけました。
「『JIHE』の会場で、御社の教材やポスターを配りませんか。啓蒙に、これほどいい場所はないと思うのですが」
違法な薬物乱用と、合法的なCBD・ヘンプ製品との違いを、業界の最大の集まる場で明確に示す。
そのためのコラボレーションでした。
「業界における法令遵守や自主規制には敬意を表します。しかし、CBDについても副作用を生じる可能性についての懸念がある」として、連携は実現しませんでした。
それでも、彼は攻撃をしません。
「向こうが拒否しても、こちら側からは歩み寄り続ける。それがプラットフォームを運営する側の責任だと思っています」
現在の温厚な風貌とロジカルな語り口からは想像もつきませんが、中学時代の彼は、感情的で喧嘩っ早いタイプの少年でした。
力で解決しようとしていました。
開成高校に入り、周囲の精神的に成熟した仲間に囲まれて、「冷静に話せば分かり合える」という下地が身につきました。
「分かり合えなかったら、それはしょうがない。でも、攻撃する必要はない」
国会で業界内の不正を指摘した時も、薬物乱用防止団体に拒否された時も、彼の武器は、力ではなく、対話でした。

2024年12月、大麻取締法と麻向法が改正されました。
医療用大麻が解禁され、同時に「使用罪」が新設。
2026年には、CBNが指定薬物化の方向で審議され、厳格化されました。
事業者の撤退は加速し、既存CBDブランドは肌感で1/3まで減少したと言います。
しかし、法改正には「2029年に見直される可能性」が組み込まれています。
2029年。
それが、業界にとっての次の分岐点です。
その3年間を、エビデンス構築に充てる。
中澤氏が今、最も力を入れている戦いです。
現在、彼は、業界内の8団体を束ねる『JCF』の事務局として、隔週でミーティングを重ねています。
「残留限度値を国際基準に合わせるべきエビデンス」
「医療用途における臨床的な根拠」
「貿易実務における日欧米の整合」
これらを、業界団体・臨床カンナビノイド学会・各企業が連携して積み上げる。
<出典元>
▶️ 一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会(公式サイト)
そして、規制当局や国会議員との対話に持っていく。
「エビデンス構築という言い方は、ちょっと政治的すぎるかもしれません。でも、2027年までに業界としてそろえておかないといけないものは、確実に積み上がっています」
『JIHE』、『JCF』、『2027年法改正見直し』。
3つの対話の場が、日本の大麻産業の進歩を50年から5年に早めるために動いています。

対話を続ける根拠は、どこにあるのでしょうか。
彼は、意外な場所をその答えに挙げます。
オランダ・アムステルダムの大麻博物館。
そこに、こんな展示があるそうです。
「世界最古の大麻の記録は、日本である」
福井県の鳥浜貝塚の縄文時代の遺跡から、麻の痕跡が発見されています。
中国説もありますが、少なくとも日本には、縄文時代から麻を生活に取り込んできた長い歴史があります。
神事、繊維、建材、燃料。
「技術と歴史を掛け合わせたポジションは、日本ならではのものだと思っています。アメリカ、ヨーロッパ、タイなど、自分たちよりもスケールが大きい海外事業者たちと割と対等に話せているのも、そこにリスペクトがあるからかもしれません」
『JIHE 2026』のテーマ「Break the Bias, Back to ORIGIN── 偏見の向こうに、原点がある」。
その「ORIGIN」は、西洋のカウンターカルチャーでも、カリフォルニアのスタートアップ文化でもなく、鳥浜貝塚にあります。
「縄文時代からの長い歴史と、最新のエビデンスと、国際基準の規制がそろった業界を目指したい」
彼は、冷静にそう語ります。

中学時代は力で人を動かす。
高校で「冷静に話せば分かり合える」という下地が生まれました。
衆議院の議場でマイクを握った時も、薬物乱用防止団体に提案を持ち込んだ時も、『JIHE』のスタンス表明をプレスリリースに刻んだ時も、彼が選んだのは、対話でした。
自社ブランドを持たず、CBD・ヘンプ・医療の分断を越え、業界の悪貨を名指し、海外の業界団体とは手を結ぶ。
『JIHE』、『JCF』、『2027年法改正見直し』。
対話のオーケストレーターは、今日も指揮棒を振っています。
業界が自然に花開くのを待てば、50年。
対話で動かせば、5年。
時計の針を進めるために、彼は息切れしないよう、冷静に、長く、立ち続けます。
| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 企業名 | Asabis株式会社 |
| 設立年 | 2021年 |
| 代表者 | 中澤 亮太 |
| 所在地 | 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-23-4 桑野ビル2F |
| 事業内容 | CBD/カンナビノイドに特化したメディア、コミュニティ、プラットフォームの企画・開発・運営 |
| URL | https://www.asabis.co.jp/ |

21世紀、大麻・ヘンプ産業という名のカオス。
この不透明な業界で、それぞれの立場から、業界の夜明けを信じて戦うプロフェッショナルたちがいます。
彼/彼女たちの共通点は、その魂に、日本の武士道にも通じる誠実さと勇気を宿していることです。
本シリーズでは、世界中の最前線で活躍するプレイヤーを訪ね、大麻侍が守り抜く「信念の形」を解き明かしていきます。
本記事は、世界の大麻ビジネスの実情をレポートするものであり、日本国内での違法薬物の使用、所持、栽培、売買等を推奨・助長する意図は一切ありません(THCを含む大麻製品は、日本の法令で厳しく規制されています)。