海外の大麻展示会には、毎回必ず「常連」がいます。
中でも唯一に近い日本人、石田昌宏氏が、そのひとです。
兵庫県三木市の園芸用具メーカー『サボテン』代表。
園芸用具の製造販売のことなら株式会社サボテン
筆者も出展者として、何度か遠い国で顔を合わせてきました。
印象的なのは、展示会が終わった後です。
筆者が疲れ果てて翌日の便を取る中、石田氏は会期終了と同時に空港へ向かいます。
「用事が済んだら帰る」。
それだけのことですが、その潔さが石田氏らしい。
室町時代から続く播磨の金物の町、三木市で創業90年以上。
その園芸用具メーカーの6代目が今、世界の大麻産業にハサミを届けています。
国内でそれを知っている人間は、ほとんどいません。
目次
偶然のきっかけ。ブドウ収穫用ハサミが、よもやのグロワー支持を得る

2019年、石田氏はブドウ収穫用ハサミがアメリカで急に売れている事実に気づきました。
卸先は販売場所を教えてくれませんでした。
石田氏はみずからアメリカに乗り込み、独自調査したところ、売られていたのは、ハイドロポニック(室内水耕栽培)の専門ショップ。
買っていたのは大麻栽培者(グロワー)でした。
「なぜグロワーがブドウ収穫用ハサミ買うのか?」をどうしても確かめたかった石田氏。
防犯カメラが並ぶ大麻農場のインターフォンを押し、グロワーに直接会って使い方を聞くと、驚きの事実が発覚します。
「ブドウもタイマも、樹液(ヤニ)がすごく出るんです。だから軽くないといけない。先端が細くてよく切れる。錆びないステンレス。バチバチに合致してて」
ハサミが使われていたのは「トリミング」という工程です。
収穫した大麻の花芽(バッズ)から余分な葉や茎を丁寧に取り除く作業で、品質と見た目を左右する重要な工程。
細かい部分を繰り返し切り続けるため、軽さ・切れ味・樹液への耐性が道具に厳しく求められます。
ブドウ摘果もまさに同じ条件でした。
この気づきをきっかけに、大麻専用パッケージへ転換し、刃の仕様を改良。
今では直刃・アングル・カーブの3系統、フッ素コーティングの有無、開閉方式の違いで15種のラインナップに育ちます。
Professional Trimming Scissors GOKUGIRI

海外の大麻展示会でのアピールはたった一言です。
「とにかく触ってくれ。持ったらわかる」。
市場には中国製の廉価品が多い。
その中で『サボテン』のハサミは、手に取った瞬間に差がわかります。
2枚の刃を1本1本叩いて合わせる職人の手仕事が切れ味を決める。
90年分の技術が、そこに宿っています。
最近はヨーロッパの医療大麻事業者や、オーガニック生産者からも問い合わせが入るそうです。
「ハサミにGAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理基準)に適合する品質基準はあるか」「有害物質は含まれていないか」。
生産物の安全管理が厳格化するにつれ、道具の品質証明まで求められるようになります。
フッ素コーティングが剥がれて不純物になることを嫌う生産者のために、あえてコーティングなしのステンレス製も用意しています。
「日本で、大麻のことをわかって設計している」という専門性が、今まさに武器になっているのです。
ところで、記事内の写真で気になった方も多いでしょう。
石田氏が海外展示会に侍姿で現れる理由。
本人に直接聞くと、答えは実にそっけないほど明快でした。
「まずは存在を知ってもらわないと。見つけてもらわないとハサミがいいとか悪いにならないんで」。
麻切刀:採算を度外視した、農具の復興

『サボテン』は、日本の大麻産業のために、まったく採算が合わない取り組みもしています。
数年前、伊勢麻の麻農家の圃場を訪ねた際、目にしたのが麻切刀(おきりとう)。
2〜3メートルに育った麻の茎から葉を刈り取るための、刀の形をした農具です。
昔から麻農家が使ってきた道具は、各地の鍛冶屋がつくっていました。
しかし今、それをつくれる鍛冶屋は途絶えて久しい。
全国50軒の麻農家が「なくなったら終わり」という状態で、現存品を騙し騙しメンテナンスしながら、使い続けるだけ。
石田氏は動きます。
「麻栽培がまた広く当たり前になっていく過程で、農具は絶対に必要です。うちができることがあるんであれば、と思って」
地元・三木市の鍛冶屋と組み、包丁と同じ製法——硬い鋼と柔らかい鉄を手打ちで貼り合わせる構造で試作を繰り返しました。
最初の試作を麻農家に試してもらったところ、一振りで「ダメだ、こりゃ」という感想。
重すぎて使い物になりませんでした。
再び、手打ちで丁寧に鋼を重ねた刀を麻農家に持ってもらうと「抜群にいい」という言葉が返ってきました。
日本有数の麻農家でも同じ反応。
そこから受注生産という形で販売を始めました。
「商売としてはまったく旨味がない」と石田さんは言います。
麻農家50軒分の需要しかないわけですから当然です。
それでもつくる理由は一つ。
「農具が消えれば、農業の作法も消える」。
それに、三木の刃物産地で育った者として、農具が絶えることへの抵抗感があります。
農水省はこの事実を知っているでしょうか。
園芸用具メーカーが、みずから警察に確認しに行った国

石田氏の言葉で、重く響くものがありました。
「悪いことだと思わずに、農業ジャンルととらえてやってるのは、たぶんうちぐらいだと思う」
取引銀行にも正直に話しています。
警察にもみずから確認しに行きました。
「大麻用のハサミをつくっているんだけど、犯罪幇助にならないか」と。
返ってきた回答は「問題はないと思いますが、お墨付きは与えられません」でした。
園芸用具メーカーがハサミを売るために、警察の窓口を訪ね「これは問題ありませんか」と聞かなければならない。
法の解釈が曖昧なため、「お墨付きは与えられない」という答えしか返ってこない。
これは『サボテン』の問題ではありません。
制度設計の問題です。
「法の問題は国によるだけの話で、単純に農業の1ジャンルの農具をつくっているだけ。そのジャンルで農業をしている人がいるのであれば、お役に立ちたいというのがメーカーとしての姿勢です」
石田氏はそう言い切ります。
その言葉を受け止める制度が、今の日本にはありません。
植物1種類だけで、世界中に毎月「専門展示会」が立つ産業

「お米エキスポはないんですよ。ぶどうエキスポもない。でも大麻は毎月、各国で数万人規模の専門展示会が開かれている。そんな農業ジャンル、他にないんです」
ヨーロッパでは各国で大麻合法化・規制緩和が進み、ドイツやタイでも解禁しました。
北米市場は数兆円規模に達しています。
その市場の中で今、三木の刃物職人集団『サボテン』が「MADE IN JAPANの大麻専門ハサミ」を届け、存在感を出しています。
日本の地場産業が、日本の規制の外側で輸出産業になっているという逆説です。
一方、国内では麻農家がわずか50軒と言われています。
農具のつくり手がいなくなった。
事業者が警察に法解釈を確認しに行くしかない。
伝統的な大麻文化と産業の両方が、静かに失われていきます。
世界が動いている間に、日本は何を守り、何を失っているか。
まとめ

石田氏はビジョンを語る人ではありません。
大きな理念を掲げる人でもありません。
園芸用具メーカーとして、グロワーや麻農家が必要とする道具を届けるだけ。
消えかけた麻切刀を守る。
専門性で廉価品に勝つ。
ただそれだけのことを、7年間実行し続けています。
そしてその活動の中に、今の日本の大麻政策が見落としているものが、いくつも詰まっています。
大麻やヘンプを「薬物」として見る目と、「農業の一ジャンル」として見る目は、まったく違う景色をつくり出します。
石田氏はすでに後者の景色の中で事業をしてきました。
政策も制度も、まだそこに追いついていません。
| 項目 | 情報 |
|---|---|
| 企業名 | 株式会社サボテン |
| 設立年 | 1932年10月 |
| 代表者 | 石田 昌宏 |
| 所在地 | 〒673-0443 兵庫県三木市別所町巴40 |
| 電話番号 | 0794-82-0666 |
| 事業内容 | 園芸鋏、剪定鋏、刈込鋏、フッ素加工刃物、剪定鋸、各種鋸、その他園芸商品、電材用鋏の製造 |
| URL | https://www.saboten-miki.co.jp/ |
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本記事は、世界の大麻ビジネスの実情をレポートするものであり、日本国内での違法薬物の使用、所持、栽培、売買等を推奨・助長する意図は一切ありません(THCを含む大麻製品は、日本の法令で厳しく規制されています)。





